101回のプロポーズ
愛してる

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大切なことなので101回言いました。

(2008.08.20 再編集)
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200808191107
玄関前のぬりかべさん
 妖怪には学校も試験も何にもないというけれど、どうやらそれは本当のことらしい。
 いや、あれはおばけだっけか?
 先日、ウチに突然やってきた自称・座敷童子は寝惚けた顔でパンを齧っている。
 ちなみに彼女がやってきてからの変化といえば、食費が二人分掛かるようになったのと、俺が家にいない間も彼女がテレビやらゲーム機やらを使っているせいで以前よりも電気代が掛かるようになったくらいだ。俺の給料が上がったりとか、一億円拾ったりとかそういうラッキーなことは何もない。
 これから人が社会の荒波に揉まれに行こうとしているのに、呑気な顔でテレビを見てケタケタ笑っているのを目の前にすると本気で家から放り出したくなる。
「じゃ、いってくるから」
 玄関前で声を掛けるも、居候である座敷童子はこっちを見ようともしない。
「いってきまーす」
 一応、聞こえていなかったのかも知れないともう一度声を出してみるけど結果は同じ。
「おいっ!」
「……なんですか?」
 いい加減、腹が立つ。思わず声を荒げる俺に、座敷童子は見るからにうるさそうに顔だけを向けた。
「いってらっしゃいのちゅーとかやりませんよ? そういうご都合主義、エロマンガの中だけですから」
「誰がいるか、そんなもん!」
 あと女の子が普通に『エロマンガ』とか言うんじゃありません。
「家主が出掛けるんだから、見送りの挨拶とかしろって言ってんだ」
「はいはい、いってらっしゃい」
「だから、それをテレビじゃなくて俺に向かって言えっての!」
 初めの頃は三つ指ついて見送りしてくれたというのに、何なんだこの態度の急変は。
 色々と言いたいことはあるが、あんまりこうしていても会社に遅れてしまうので、俺は座敷童子に一睨みするとドアノブに手をかけた。
「ぎゃぷっ」
 ……気のせいだろうか。扉が完全に開ききる前に何かにぶつかって止まったのは。あと明らかに人のものっぽい悲鳴が聞こえたような気もする。
 小さく開いたドアの隙間から恐る恐る外を覗いてみると、そこには予想通りドアの前に人が倒れていた。しかも何か見たことのある顔だ。
「……大丈夫ですか」
「だめ〜、全然死ぬ〜」
 日本語として激しく間違っている返事が返ってくる。残念ながら俺の辞書にそういう言語を翻訳する機能は搭載されていないが、つまりはまぁ大丈夫だということだろう。
「塗壁さん。そんなところで寝られると困るんですけど」
 お隣の塗壁さんは今日も明け方まで飲んで帰ってきたらしい。それがなぜ毎回我が家の前で寝入るのかは謎だ。
「う〜ん、後五分」
「俺としては五分だろうが三年寝太郎だろうが構いませんけどね。そこ、どいてくれないと出れないんですけど」
 流石に女性をドアで押し退けるのには抵抗がある。だが、このままでは遅刻になってしまう俺としては非常に困った事態になったと言わざる得ない。
 とりあえずドアと壁の間にできた非常に狭い空間を無理矢理通り抜ける。
「じゃ、いってきますから」
「だめ〜!」
「うわちゃうっ」
 途中で壁にぶつけた頭を摩りながら、ドアに鍵をかけいざ出発しようとした瞬間、右足に何か重たいものが絡み付いて俺は思わずつんのめった。
「何するんですか!」
 見れば、塗壁さんが俺の右足にしがみ付いている。
 押し付けられる胸の感触が心地良くないといえば嘘になるが、今はそんなものより会社の上司の頭に生えるかもしれない角の方が重要だ。
「やら〜、らめ〜、置いていっちゃやら〜!」
 うわ〜、この人酒が抜けてないどころか、絶賛酔いどれ中だよ。
「離して! 俺に会社に! 会社に行かせて下さい!」
「バカヤロウー! 社会に歯車なんかになってんじゃねぇ〜!」
「そんな青い考えは十代の頃のはしかにしといて下さいよ!」
 足を掴む塗壁さんの両手を振り解こうと四苦八苦するが、どういうわけか彼女の腕はびくともしない。酔っ払いだからかどうなのか知らないが、手加減もなく足を締め上げてくるので非常に痛い。
「……何をやってるんです」
 ふと気が付けば、我が家の同居人が玄関のドアの隙間から、傍目にはじゃれあっているようにしか見えない俺達を胡乱げな表情で見詰めていた。
「おいっ、座敷童子! この人、何とかしてくれ!」
「………」
 助けを求める俺と、その足にがっしりと掴まった塗壁さんと、CMが終わったらしいテレビへと順番に視線を巡らせた後。
 座敷童子は妙に可愛らしい、だがそれ故に作り笑い以外の何ものでもない笑顔でのたまった。
「すいません。私、座敷童子なんで憑いている家の外には出られないんですよ。本当はとってもとっても力になりたいんですけど、残念です」
「テメェ! 昨日、一緒に近所のコンビニに行ったじゃねぇか!!」
 バタンとドアが閉じた。


 俺が同居人がいるのだから無理にドアから出ずに、窓から外に出れば良かったのだと気付いたのは十分後のことだった。


▽関連▽
塗壁 - Wikipedia
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200807120133
ドッペルゲンガー
出先で姉と会う
会話
再び姉と会う
さっきのはドッペルゲンガーだったんだ
ところで、この前私のプリン食べた?
ドッペルの仕業です
殴られる
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200803142246
百鬼夜行
 空に満月。実に風流。
 そして目の前には百鬼夜行(ひゃっきやこう)。…実に風流。
「こりゃまた、ずいぶんと」
「若いって言うのは素敵だわ」
 僕の意味の無い呟きに、律儀にも答えてくれたのは相棒のナツメ。
 さすがは相棒、付き合いが良い。
「しっかし、ずいぶんと今日は数が多いな」
 道を完全に占領しつつ、九十九神(つくもがみ)達は青春の最中を爆走中。
 長い年月を過ごし、魂の宿った物々が歌い舞い踊る深夜の祭典。
 だが、そんなものを公共の道路で無許可に敢行されるのは迷惑以外のなにものでもない。
 ――人、それを暴走族と呼ぶ。
「そこの百鬼夜行、止まりなさ〜い!」
 ナツメが大声で叫ぶ。
 だがその声は彼らが掻き鳴らすエレキギターやドラムやグランドピアノなどの歌声に掻き消されて、まったく届きゃしない。
 近くにいたテーブルや椅子には聞こえたようだが、ものの見事に無視されてるし。
 彼女はそれでも諦めずに声を張り上げる。
「止まりなさ〜い!」とか、
「今の内に止まってくださ〜い!」だとか、
「田舎の大工さん材木屋さんも泣いてますよぉ〜!!」って感じで。
 焼け石に水。台風に扇風機。
 ……ああ、楽しそうだな百鬼夜行。僕も警官でなければ加わりたいもんだ。
 実際、祭りに加わってる一般人もいるし。警官の一人の二人混ざっても、誰も分からないんではないだろうか。
「止まれってんだろうがッ!!」
 怒声に驚いて横を見ると、いつの間にやらナツメの姿が無い。
 百鬼夜行に目を戻せば、その列に木刀片手に踊りかかっていく相棒の姿。
 …参加しなくて良かった。
 とりあえず僕は近くで踊っていた拡声器を掴んだ。
「あ〜、明日の朝日を眺めたい方は解散した方が身のためですよ〜」


(2004年度公開作品に加筆修正したもの)

▽関連▽
鬼 - Wikipedia(百鬼夜行に関する言及あり)
高台寺 百鬼夜行展
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200802091003
『頭の良さ』の話
『自称・頭が良い人』が陥りやすい勘違いと言うのはね。知識を無闇に灰色細胞に刻みこんだり、あるいは無用なトラブルを抱え込む自身の人生運営の拙さを自慢したり。そういったことを『頭が良い』と表現してしまうところよね。

…もちろんもちろん。それも頭の良さを構成する一要素ではあるよ。
だけど『頭の良さ』なんて元来無闇に抽象的な言葉でしょう? ――個人的には『愛』に負けず劣らず複雑怪奇だと思うのだけれど閑話休題。

光を当てる角度で正解が変わる位には無意味な代物……。
そんなものを支柱にして生きてると、いつか足下が腐り落ちるわよ。

そうそう。一番可哀想な人種っていうのはね、皆が知っていることを、さも自分だけが気付いた重大事のように話す人ね。
たまたま、その手の話題に疎い人が相手なら感心もしてもらえるでしょうけど、その自惚れは自分を井戸の底に沈めるわよ。
…灰色細胞についた汚れを洗い流すのは一苦労だしね。

あなたも気を付けた方が良いわ。


――河子 乃伊人(かわず のいど)、自宅の茶の間兼寝室にて語る
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200710220143
1DKの座敷童子
「座敷童子?」
「座敷童子!」
 オウム返しされてもなぁ。……まぁ、別にいいけど。
 しかし座敷童子に動物の耳なんて生えているものだったろうか。
「座敷童子?」
 念のためにもう一度尋ねてみたりする。
「……座敷童子…ですよ?」
 ……なんでそこで口篭るかな。
 まぁ、見た目は確かに童子だった。男一人が暮らす部屋にいる所を目撃されたら、俺がお縄をいただいてしまいそうな程度には小学校低学年ぐらいの女の子だ。
 しかし座敷童子ってのはもう少し……こう、着物とか着ているイメージがあるのだが、この目の前の自称座敷童子は随分と今風な格好をしていた。一見するとそこら辺をうろついている普通の子供にしか見えない。
 まぁ、普通の子供は頭から耳も生やしてないし、尻にフサフサの尻尾もないけど。
 これが今流行りの萌え要素というやつだろうか。
「で、その座敷童子が一体、どうしてウチに?」
 座敷童子っていうのは、豪家や古い家に憑くもんじゃなかったか。
 少なくとも築6年、1DKの一室に出現するような存在ではないのは確かだ。
「それはもちろん座敷童子ですから。あなたを幸せにするためにやってきたんですよ」
「…座敷童子ってそんなアクティブな生物だっけ?」
「そこはそれ。時代の流れってやつです」
 妖怪も殿様商売をしている余裕はないということか。…なんとも世知辛い世の中だ。
「で、幸せって具体的になんなんだ?」
 とりあえず、そこは重要だ。幸福の尺度など人それぞれなのだから、勝手な基準で幸せを押し付けられたりしたら適わない。
「お金持ちになれます!」
 座敷童子はぱっと顔を輝かせた。
「へぇ、それはすごい」
 しかし座敷童子は家に憑くんだから、お金持ちになれてもこのアパートから引っ越したりはできないのではなかろうか。…せめて1LDKとかにならんものか。
 なんにしろ、これは渡りに船だ。今月は色々な不幸やら幸福やらが重なって、財布の中身が心許ないところだったりする。
「じゃあ、早速で悪いけどお金とか出してもらえないかな。今月色々ときつくて……」
「無理ですよ?」
 なのに、そんなご無体なことを言う。
「えっ、無理…な、の?」
「そりゃあ、無理ですよ」
 座敷童子は「やれやれ」というように深く頭を振った。ちょっと常識の無い子扱いされたようで腹が立つ。
「昔は木の葉を小判にしたりもしてましたけどね。流石にこれだけ印刷技術が向上すると、それを完璧に再現するのは難しいんですよねぇ」
 科学技術の進歩は妖怪業界にも深刻な影響を与えているようだ。
 ……今、木の葉を小判にとか言ってなかっただろうか。俺の聞き間違いか?
「……座敷童子なんだよな?」
 念のために確認。
「……座敷童子…なんじゃないですか?」
「いや、俺に訊かれても困る」
「…それはそうなんですけど」
 だからなんで自信を持って座敷童子だと胸を張ってくれないかな、この娘さんは。
「まぁ、とりあえず座敷童子さんも何か食べるかい? といっても、給料日前なんでロクなものないけど」
 考えても始まらない。そもそも妖怪に論理性を求める方が時間の無駄だ。
「計画性ないですねぇ」
 あなたが座敷童子の本領を発揮してくれれば、すぐにでもフルコースを用意できるんですけどね。
 そんなことを思いながらも冷蔵庫を開けてみる。
 ……なんだか思っていた以上に寂しいことになっている。冷蔵庫には調味料やドレッシングを除くと、一品だけしか無かった。
「…しかし、なんでまた」
「…? どうしました?」
 座敷童子は可愛く首を傾げたりする。その頭の上で尖がった耳がピコピコ揺れる。
「あ、いや。え〜と……どういうことか油揚げしかないんです」
 その瞬間、座敷童子の顔がパッと輝いた。
「私、油揚げ大好きなんです!!」
 彼女の喜びを証明するかのように、フサフサの尻尾がブンブンと振られる。
「………」
 いや。もう、なんか色々どうでもいいや。


▽関連▽
座敷童子 - Wikipedia
緑風荘の座敷童子
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200708171222
奈落井戸
 毎度馬鹿馬鹿しいお話を一つ。

 ある所に底がないと言われる井戸があったそうな。
 ある時、その噂を聞きつけた二人の男が、それが本当が確かめるためにやってきた。
「おい、宇津木。ここがそうなのかい?」
「ああ、噂によるとこの井戸は地獄まで通じているそうだよ」
 言われて見てみれば井戸の奥は暗くて底まで見渡せない。なるほどこれはかなり深い井戸のようだ。
「はんっ、どうせタダの空井戸だろうよ」
「確かめてみれば分かる話さね。じゃ、庄吉っちゃん、ちょっと降りてみちゃくれないか」
「……いや、待て待て待て待て。なんで俺が降りなきゃいけないんだい。先に調べようと言い出したのは宇津木じゃないか」
「もし本当に地獄に通じていたら怖いじゃないか」
「バカヤロウ。だったら尚更俺に行かせようとするんじゃねぇよ! ……ほら、ここに石がある。これを投げ入れてみればいい話じゃないか」
「お、庄吉っちゃん冴えてるねっ」
「当たり前よ。お前なんかと一緒にするんじゃないよ……あらよっ」
 ほいっと石を投げ込んでみる。
 ひゅーーーーーーーーーーーーーー……
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
「……音がしねぇな?」
「…やっぱり地獄に通じてるんじゃ――」
「馬鹿言っちゃいけねぇよ。きっとどっかに引っかかったんだ。そらっ、もう一個放り込んでみよう」
 二つ目をほいっ。
 ひゅーーーーーーーーーーーーーー……
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
「……なぁ、庄吉っちゃん。やっぱり――」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや、馬鹿言っちゃいけねぇ。馬鹿言っちゃいけねぇよ。
 地獄に通じる井戸なんてあるもんかい。……よし、宇津木。お前ちょっと行ってどうなってるか見て来い」
「な、なに言ってんだよ。行くなら庄吉っちゃんが行ってくれよ!」
「もし本当に地獄に通じてたら怖いじゃねぇか!」
「だったら尚更俺を行かそうとしないでくれよ!」
「――ええい、鬱陶しい! 男なら勇気出して行って来い!」
「あ、こら、やめてくれよ。押さないでくれよ!」
「大丈夫だ! ここに来ることは誰にも言ってない!」
「あっ! 殺す気だね! 俺を殺して完全犯罪にする気だね! …落ちる落ちる落ちるっ!」
『あいてっ!?』
 ・・・・・・・・・・・
「……おい宇津木。お前なんか言ったか?」
「……いいや。庄吉っちゃんこそ何か言わなかったかい?」
 押し問答は一時停止。二人がそっと井戸に向かって耳を澄ませていると、
『いたっ! また降って来やがった!』
 ・・・・・・・・・・・
「……声がするね庄吉っちゃん」
「……声がするな宇津木」
 井戸の底の声がまるで地獄からのもののように響いてくる。
『まぁたぁ近所のガキか!? いい加減にせんと引きずり込むぞ!!』
 ぞわぞわぞわぞわぞわっ
 何かが井戸の壁を駆け上ってくる!
「っでたーーーーーーーーーーーーーーー!?」
 二人の男は一目散。脱兎の如く森を抜け、家に帰ると布団を被って朝まで震えたそうな。

 さて、話はこれにてお終い。
 えっ、井戸の中はどうなっていたのかって?
 そんなもの落ちない話なのですから分かるわけがありません。
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200702210813
| きみの翼は自由じゃない |